2025年に発売40周年を迎えたウインナーブランド「シャウエッセン」。
日本ハムの事業の柱であるハム・ソーセージ類の中でも特に人気が高く、同社において主力中の主力と言える商品です。
2024年度には、その売上が過去最高の約800億円を記録しました。
この成長を牽引したのが、期間限定で販売された新商品「シャウエッセン 夜味」です。
特徴的なのは、その味わいだけでなく、社内に長く根づいていた“暗黙の掟”を次々と打ち破って誕生した点にあります。
「夜味」は、これまで朝食向けに親しまれてきたシャウエッセンを、夕食シーンに拡張すべく開発されました。
もともとシャウエッセンの購買層は60代以上が中心で、2030年に売上高1000億円を目指すにあたり、若年層の開拓が大きな課題となっていました。
また、喫食シーンが朝に偏っていたため、その広がりも求められていたのです。
想定ターゲットは30〜40代男性。
濃い味付けや焼き調理の提案、SNS戦略による若年層アプローチなど、従来の社内常識とは真逆を行く戦略が功を奏しました。
しかし、そこには「ボイル調理のみ」「焼くべからず」「切るべからず」「味を変えるべからず」といった社内の“4つのタブー”が立ちはだかりました。
特に味の変更は長年避けられており、過去の新フレーバー提案時には会議が静まり返るほどの抵抗があったといいます。
それでも担当者たちは、市場分析に基づく綿密な企画とプレゼンで上層部を説得しました。
社内調査では社員の88%がすでに焼いて食べていたという事実も、逆手にとってプロモーションに活用しました。
こうして「夜味」は初月目標の3倍超を売り上げ、ブランド全体の購買層・喫食シーンの拡大に成功しました。
転機となったのが、3年前に設置された「マーケティング統括部」です。
かつて縦割りだった商品開発・ブランド戦略・マーケティングの3部署が一体となり、部門横断的な連携が実現しました。
商品企画から販売戦略まで一貫して推進できる体制が、タブーを超える挑戦を後押ししたのです。
伝統を守りながら革新を図る──。
そのバランスを模索する姿勢こそが、ロングセラーブランドの持続的成長を支えているのです。
思えば日本ハムは、プロ野球界で大谷翔平選手に“二刀流”を提案した企業でもあります。
常識を疑い、タブーに挑む文化は、食の世界でも息づいているように感じられます。