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岩田 徹

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第178回 万一の備え

2024/05/10

2024年5月6日。
東京ドームで開催されたボクシング世界スーパーバンタム級4団体統一戦。
4団体統一王者の井上尚弥選手が、悪童とも呼ばれる挑戦者、ルイス・ネリ選手を
6回TKOで勝利し、王者を防衛。
2012年7月にプロデビューして以来の成績を、27戦27勝24K Oとしました。
井上選手が強いことは誰がどこからみても明白であり、
史上最高、最強のチャンピオンと言っても過言ではないと思います。
ですが、年齢も31歳となり、
防衛戦があるたびに最強、強敵、難敵と言われる相手を迎えています。
単なるファンである私ですら、もしかすると今回何かあるのではないか、
と、最近は試合ごとに不安な気持ちになります。
試合をする井上選手の心境を想像することはできませんが、
本人が受けるプレッシャーは相当なものがあると思います。
それを毎試合跳ねのけて最高の結果をファンに見せる。
井上選手がファンを強烈に惹きつける所以だと思います。

今回の試合、ご存知の方も多いかもしれませんが、
初回にネリ選手の左フックをまともに浴びた井上選手がプロ初のダウンを奪われます。
それまで26戦して一度もダウンをしたことのなかった井上選手。
東京ドームを埋め尽くしたファンもダウンの瞬間、一気に凍りつきます。
その瞬間に空気が一気に変わるのは、画面を通しても見て取れます。
ダウン経験がなく、圧倒的なパフォーマンスで勝ち続けてきた絶対王者。
普通であれば動揺もするでしょうし、パンチが効いていないと虚勢を張って、
すぐに立ち上がりファイティングポーズを取るかもしれません。
ですが井上選手が取った行動は、8カウントされるまで座ったまま、
冷静に体力の回復に努めていました。
試合後のインタビューで井上選手が答えた内容に、一言ですごいと感服しました。
「ダウンをした時を想定して練習していた。」
「ダウンを喫したらすぐに立ち上がらず、8カウントまで体力を回復すること。」
「慌てて立ち上がると足元がふらつくことで、さらにラッシュをかけられる。」
冷静さを失ってもおかしくない状況下で、井上選手が一番冷静でした。

立ち上がった後、攻め込まれはしますが、足や体を使って被弾を回避したり、
相手の攻撃にパンチを合わせたりして、何とか初回を乗り切りました。
そして2回以降はさらに冷静に試合を進めネリ選手を圧倒し、
6回にこの試合3度目のダウンを奪ってノックアウト。
見事勝利を飾りました。

どれだけ強くても、万一に備えて準備を行う。
周囲から見て「まさか」の事象も、井上選手からすれば「想定内」。
冷静に心を切り換えて相手を圧倒していく。
勝ち続けていても驕ることなく精進を重ね、さらなる高みを目指す。
いかに普段の鍛錬が重要かを思い知らされた一戦でした。
最悪な状況が目の前に現れても、冷静に対処できる力を身に付けたいものですね。