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益田 和久

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第234回 未来への『思い切り』~DX時代の意思決定とは~

2025/08/28

日本経済新聞に「さよならVGA端子」という記事が掲載されていました。
パナソニックがノートパソコン「レッツノート」の新モデルで、映像出力用のVGA端子を初めて廃止するという内容です。
長らくPCの標準装備だったVGAが、ついにレガシー技術として正式に扱われるようになったのは、私見ですが、遅すぎた決断だったと思います。

VGAはアナログ信号で、解像度の低さに加え、音声が出力できないという致命的な欠点がありました。
一方、2000年代前半に登場したHDMIはデジタル信号で、音声も伝送できます。
私が講師として独立した頃は、VGAが主流でしたが、今ではほとんど見かけません。

それでも、私は未だにVGAアダプターを持ち歩いています。
数年前に研修の際、プロジェクターとパソコンの接続がうまくいかず、急遽VGAでしのいだ経験があったからです。
それ以来、もしものときに備えて、お客様の環境で接続不良が起きた際に、研修を進められなくなることを避けるための「保険」のようなものとして持ち歩いています。
しかし、よく考えると笑ってしまうのですが、アダプターを持ち歩いていても、会場にケーブルがなければ意味がありません。
接続不良の経験がトラウマとなり、どこかで「備えあれば憂いなし」という発想に自分を縛り付けている。
そんな非合理的な行動を、改めて痛感しています。

今回のVGA廃止は、単なる技術トレンドの変化以上の意味を持つように感じます。
長年、薄型化の妨げになると指摘されながらも、教育機関など一部のニーズに応えるために搭載され続けてきたVGA 。
しかし、ついに廃止を決めたのは、この「備え」の呪縛を断ち切り、「未来への思い切り」を選んだ決断と言えるでしょう。

しかし、日本全体を見ると、この「備えあれば憂いなし」という気質が、DXを阻む大きな要因になっているのではないでしょうか。
マイナンバー保険証と紙の保険証が併用されたり、今なお多くの企業でFAXが使われたりしているのも、同様の気質が原因です。
紙の文化やハンコ文化、そして「取引先が使っているから」という理由でFAXを残し続けることは、一部の層に合わせて全体を停滞させているにすぎません。

DX推進を阻むもう一つの要因は、デジタル化の波についていけない人たちへの配慮のあり方です。
企業が業務改革の提案を若手社員に任せ、上司や幹部がデジタルツールを使いこなせないからと「紙でくれ」と要求する場面は、もはや日常茶飯事です。
金融機関では電子決裁が当たり前になっているのに、役職者がわざわざ印刷してコメントを記入するといった話も耳にします。

これは、本来DXを推進する立場のリーダー層が、皮肉にもデジタル化の恩恵を最も受けていない「紙とアナログ」の世界に留まってしまっている状況です。
マイノリティや弱者を切り捨てるのではなく、どうすれば新しい時代に連れて行けるかを考えることは重要ですが、それは永遠にアナログな手段を残し続けることではありません。
一定の移行期間は必要だとしても、暫定措置や例外などというものは、きっぱりと廃止すべきです。
一部の「備え」のために社会全体がデジタル化の恩恵を十分に享受できないのであれば、本末転倒です。

企業も個人も、このVGA廃止の事例から学ぶべきです。
未来に向けて思い切り針を振り切ること。
それが、デジタル時代に求められる意思決定のあり方ではないでしょうか。
技術の進歩が速ければ速いほど、それを使いこなす人間の基礎的な能力が問われる。
これが、AI時代の逆説的な真実なのかもしれません。
オンラインツールが発達した今だからこそ、オフラインでの学びと体験の価値を再認識すべきだと感じた今日この頃です。