2026年最初のコラムです。
昨年の年末、来年のオンライン(デジタル)に関する発信や啓蒙では何をしようかと考えていたときに、日本経済新聞のある記事が目に留まりました。
「AI導入しても業務に根付かない企業続出 成果より『行動の習慣化』」というタイトルで、300Bridge代表の藤原義昭氏が書かれたものです。
読んでいくと、研修の受講者や人事教育担当者から聞く現場のAI活用について、私が普段から感じていることがズバリ書いてありました。
正直、膝を打ちました。これだ、と。
記事では、多くの企業が「AIを導入したのに使われない」という壁に直面していると指摘しています。
ツールはそろい、研修も行われている。それでも日常業務にAIが根付かないのはなぜか。
藤原氏は、「スキル」ではなく「習慣」をつくるという視点から、その理由と突破口を明らかにしています。
特に共感したのは、「『教えれば使える』は幻想」という指摘です。
座学でAIの知識を教え、プロンプトの書き方を説明しても、それだけでは現場の行動は変わらない。
「分かる」と「できる」の間には大きな断絶があり、さらに「できる」と「やっている」の間にも深い溝がある。
この認識は、まさに私が研修現場で日々実感していることです。
記事の中で藤原氏は、「AI人材育成がうまくいかない最大の理由は、教育設計の起点が成果(アウトプット)になっていること」と述べています。
本来まず考えるべきは、成果を生むための行動(プロセス)だと。
このアプローチの転換こそが、AI活用を定着させる鍵なのです。
つまり、大事なことは、アウトプット(成果)ではなく行動習慣、マインドの醸成だということです。
その通りだと、私も強く思います。
実際、私が関わっている企業でも、AI研修を実施した直後は盛り上がるものの、数週間経つとほとんど使われなくなるケースが少なくありません。
それは、知識は得たけれども、「いつ」「どの場面で」「どのように」使うのかという具体的な行動のイメージが持てないからです。
記事では、ある企業の事例として、毎週1時間のオンラインセッションを3カ月間継続する取り組みが紹介されています。
参加者は毎回出されるお題に対して、AIを活用してプレゼン資料を作成し、「どのようにAIを使って資料をつくったか」をピッチする。
つまり、成果物そのものではなく、プロセスを共有するのです。
この方法の秀逸な点は、参加者ごとにAIの使い方やアプローチが異なるため、週1回の共有を通じて、全員が他のメンバーのナレッジを吸収し合えることです。
3カ月間続けることで、自然と「AIを使って業務を始める」という型が身に付いていく。
これは、まさに「習慣化の設計」です。
来年以降の研修や教育設計で、改めて意識すべきは(AIだけに関わらず)「教育とは結果を出させることではなく、行動を起こさせることである」ということだと、この記事を読んで再認識しました。
そして、その行動を「型」にして定着できるように、継続的なサポートをすること。
これが、本当に意味のある人材育成なのだと思います。
記事の最後で藤原氏は、「AIが仕事を奪うのではありません。
AIを使う人が、使わない人の仕事を奪う時代が、確実に近づいています」と述べています。
この言葉は重いです。
だからこそ、習慣を設計する教育が、企業にとって最大の競争力になるのです。
ただし、ここで私が付け加えたいのは、「好きこその物の上手なれ」という視点です。
どんなに優れた教育設計をしても、興味を持って使おうとしなければ、身につきません。手段と目的が混同しないように、AI活用の楽しさ、面白さを伝えていくことも大切だと思っています。
AIを使うと、今まで時間がかかっていた作業がサクッと終わる。
アイデアが行き詰まったときに、思いもよらない切り口を提案してくれる。
こうした「おっ!」という体験の積み重ねが、使い続けるモチベーションになります。
だから研修では、単に「使い方」を教えるだけでなく、「使って楽しい」「使うと便利」という実感を持ってもらうことを心がけています。
2026年、私自身も、お客様やビジネスパートナーと対話しながら、AI時代における人材育成のあり方について、さらに深く考えていきたいと思っています。
成果から逆算するだけでなく、行動から逆算する。
知識の習得だけでなく、行動の習慣化を設計する。
そして、AI活用の楽しさを伝えていく。
そんな一年にしたいと感じている今日この頃です。