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益田 和久

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第250回 連載250回を迎えて〜AI時代の人材育成を考える〜

2025/12/18

このコラムが250回目を迎えることになりました。
2021年3月の初回から約4年9ヶ月。
当初は1クール(3ヶ月)続けば御の字、頑張っても2クールだろうと思っていましたが、意外と書くネタはあったし、自分が思った以上に継続力があったのでしょう(苦笑)。

初回からざっと見返してみると、やはりその時々で「オンライン」に関する話題は変わっています。
最初の頃はコロナ禍真っ只中ということもあり、オンラインでの研修やミーティング、リモートワークに関するテクニカルなことばかり書いていました。
そのスキルや考え方が一般的な仕事の進め方として定着してくると、デジタルとアナログの使い分けやデジタル依存への警鐘を書いています。
ここ1年くらいはDXについて書くことが多くなりました。

振り返ると、デジタル関連の世相と向き合いながら、自分なりにアウトプットしてきました。
応分に仕事の幅も広がりましたし、新しい仕事も受注できました。
このコラム掲載の機会を与えてくださった株式会社Win-G様には心から感謝しています。

さて、記念すべき250回目は、先日の日本経済新聞に掲載された「『AIで大量失業』は空想でむしろ雇用を生む 」という記事を取り上げたいと思います。
この記事は、まさに私が普段から「今後のオンライン(DX)との向き合い方」について思っていたことが言語化されており、大いに共感したからです。

記事は、ドイツの気鋭の哲学者マルクス・ガブリエル氏へのインタビューで構成されています。
氏は「AIによる大量失業というシナリオは、20世紀の人々がフィクションの中で思い描いた空想上のディストピアだ」と断言しています。
実際に起きているのは、AIの知能が急速に向上しているのではなく、AIの感情に関する能力が高まったという現象に過ぎないと指摘しています。

「AIが人から仕事を奪う」という誤解には、私も激しく同意します。
実際、研修の現場でAI活用について話をすると、必ずと言っていいほど「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安の声が上がります。
しかし、産業革命が労働を機械化し、IT革命が頭脳労働の重要性を高めたように、テクノロジーの進化は絶えず人々に仕事の再定義を迫ってきました。
AI革命もその延長線上にあるはずです。

ガブリエル氏が提唱する「企業は最高哲学責任者(CPO)を置くべきだ」という主張も、非常に重要だと思います。
「人の尊厳を脅かさないAIをどうつくるか」「AIにどこまで仕事を任せてよいか」といった哲学的な問いに答えを出す存在が、これからの企業には必要なのです。

私の領域である人材育成でも、AIがどんどん活用されています。
研修資料の作成、受講者データの分析、フォローアップメールの自動送信など、効率化できる部分は多々あります。
しかし、ここで危惧するのは、若者が上司や先輩に聞かずに何でもAIに相談する、事務系のアウトプットはAI頼み、データも自分で読み込まず全て分析はAIに丸投げ、という状況です。
こんな仕事の進め方で本当に育成ができるのだろうか。
AI活用を研修で推進する私でさえ不安になります。

だからこそ、今こそ「AI活用の哲学」と「仕事の再定義」が必要になってくるのだと考えています。
AI活用の哲学とは、「なぜAIを使うのか」「どの部分は人間がやるべきなのか」「AIに任せることで何を得て、何を失うのか」を明確にすることです。
単に「効率化できるから」「便利だから」という理由だけでAIを導入するのではなく、その先にある本質的な価値を見据える必要があります。

仕事の再定義とは、AIが担える部分と人間にしかできない部分を明確に切り分け、人間がやるべき仕事の価値を再認識することです。
ガブリエル氏が例に挙げた「重要な事実を掘り起こす調査報道」や「オーダーメードの旅行の提案」といった仕事は、まさに人間の創造性や共感力、洞察力が求められる領域です。

私が生業としている社会人教育研修の世界でも同じことが言えます。
研修プログラムの設計、受講者一人ひとりの理解度に合わせた説明、場の空気を読んだ進行、受講者の表情から読み取る理解度の確認など、これらは人間の講師にしかできない仕事です。
一方で、事前アンケートの集計や基礎的な資料作成、復習問題の自動採点などは、AIに任せることで講師がより本質的な仕事に集中できるようになります。

記事の中で印象的だったのは、「今、人類に求められているのは仕事を再定義することだ」という言葉です。
これは前例のない事態ではなく、テクノロジーの進化とともに繰り返されてきたことなのです。
ただ、AI革命のスピードが速いため、私たちは意識的に、そして主体的に仕事の再定義に取り組む必要があります。

250回という節目を迎え、改めて思うのは、このコラムで一貫して書いてきたテーマが「変化への適応」だったということです。
コロナ禍でのオンライン化、リモートワークの定着、DXの推進、そしてAI時代の到来。
その全てが、私たちに「変化にどう向き合うか」を問いかけています。

来年は、お客様やビジネスパートナーと話をしながら、AI時代における人材育成のあり方について、さらに深く考えていきたいと思っています。
AI活用の哲学を持ち、仕事を再定義し、本当に意味のある人材育成を提供していく。
そのために、これからも現場での実践と思索を重ねていきたいと感じている今日この頃です。

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