今年最後の記事に何を書こうかと、日本経済新聞の記事を読み直していたとき、ふと目についた記事がありました。
日本通運ホールディングスの堀切智社長が投げかけた「立場や意見の違い、どう乗り越えますか?」という課題に対して寄せられた、学生さんたちの投稿です。
読んでみると、みんな自分の考えをきちんと述べていました。
SNS世代で、表面的なやりとりだけで白黒を決めたり、分断を生むような時代に生きている若者たちが、わかり合おうとすることの大事さを、いろんな角度から書いていたのです。
正直、感動しました。
産業能率大学の学生さんは、補聴器が必要な自分の「聞こえ方の違い」という立場から、「違いを隠すことではなく、そこから生まれる新たな視点を共有することが大事だ」と書いています。
ボランティア活動を続ける高校生は、「対話を通じて組織のルールを学ぶことができた」という経験を綴っています。
タイからの訪問団との交流を経験した高校生は、「違うからこそ理解に努め、違いを埋めようと努力する」と述べています。
一つひとつの投稿に対する細かな評価はしませんが、共通しているのは、「違い」を受け止め、それを今後どのように活かしていくかという視点です。
私もまったく同感です。
違いは壁ではなく、むしろチャンスなのです。
特に印象的だったのは、最後に堀切社長が述べられた言葉です。
「互いに分かり合うためには、安心して本音を話せるような状況をつくって、対話の質と量を上げていくことが必要です」
「世界で社会のデジタル化や人工知能(AI)の普及が進む状況にあっても、オンラインではなく、実際に海外の人たちと会って関係を結ぶことが大切であると、改めて感じました」
この二つの言葉から、私は一つの答えを見つけました。
それは、「最後は対面の対話がカギになる」ということです。
考えてみれば、この5年間、私たちはオンラインのツールを急速に発展させてきました。
コロナ禍を経て、ZoomやTeams、Slackといったツールは日常のものとなりました。
情報共有のスピードは格段に上がり、物理的な距離を超えたコミュニケーションが可能になりました。
しかし、それと同時に、私たちは何かを失いかけていたのかもしれません。
それは、「対面でしか伝わらない何か」です。
表情の微妙な変化、声のトーン、沈黙の間合い、場の空気感。
こうした非言語的なコミュニケーションは、オンラインではどうしても伝わりにくいものです。
特に、意見の違いを乗り越えようとするとき、こうした要素がとても大切になってきます。
では、オンラインは不要なのか。
そんなことはありません。
むしろ、オンラインの価値を高めるためにこそ、その使い方を再定義する必要があるのだと思います。
オンラインは、対面での対話の価値を高めるための最強のツールになり得るのです。
具体的には、次のような使い方が考えられます。
まず、対面で会う前の環境づくりや前提の共有です。
事前にオンラインで資料を共有したり、それぞれの立場や考えを文書で伝え合ったりすることで、対面での議論をより深いものにできます。
次に、情報を幅広く集め、相手と共有することです。
オンラインの検索機能やAIを活用すれば、短時間で多角的な情報を集められます。
それを対面の場に持ち込むことで、議論の質が格段に上がります。
そして、共感のネットワークを広げることです。
SNSやオンラインコミュニティを通じて、同じ課題意識を持つ人たちとつながることができます。
そうして広がったネットワークの中から、対面で深く話し合う相手を見つけることもできるでしょう。
つまり、オンラインは対面の対話を豊かにするための「準備」であり、対面で得た気づきや合意を「広げる」ための手段なのです。
どこまでもそれは、人間関係や仕事の価値を高めるためのツールであることを忘れてはなりません。
来年以降、オンラインとの向き合い方はさらに進化すると思います。
AIの発展により、できることは飛躍的に増えていくでしょう。
しかし、それがどれほど進化しても、最後に大切なのは「人と人が顔を合わせて対話すること」です。
私自身も、来年は研修の現場で、この考え方を実践していきたいと思っています。
オンラインでの事前学習と対面での深い対話を組み合わせたプログラム設計、AIを活用した個別最適化と対面でのグループワークの融合など、新しい形を模索していきます。
オンラインツールの価値を高めていく活動を続けながら、同時に対面の対話の大切さを伝えていく。
それが、これからの人材育成に求められることなのだと感じている今日この頃です。
今年もお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。